2016年4月25日月曜日

のぞみ通信 2016年4月23日 第218号

「あなたはどこに立つか」

寮長  東 晴也

 信田前寮長が去られたこの春休みに、私はこの敬和学園のぞみ寮は、「立つべきところに立っているのか?」と、改めて自問しました。その<立つべき所>を知るために、私は今年、改めて建学の精神が記されている聖書の言葉に立ち帰りたいと思います。
 敬和学園高校は、来年度50回生を迎え、創立50周年目を迎えます。実は、その2017年は、宗教改革500周年でもあります。マルティン・ルターが、免罪符販売をしていたローマ教会を批判した時から500年の年です。ルターの主張は、純粋に宗教的なものなのですが、やがて教会ではなく国家権力により迫害を受けます。当時の神聖ローマ帝国(ドイツ国王)の皇帝によって帝国議会に呼び出され、「自説を撤回するよう」に迫られたルターは、議場で次のように演説しています。
 「……だから、聖書の根拠、または明白な理性によって納得させられない限り、依然として聖書の根拠を確信している。……それゆえ、私は何事も取り消すことはできないし、またそうしようとは思わない。私はここに立つ。私にほかのあり方はない。」
  いやーカッコイイですね!彼は一地方都市の普通の大学の先生です。それが皇帝に呼び出されたその議会で「自分の主張の根拠は聖書に立脚するものであって、何人にも否定されない」と主張するのです。おそらく彼の人生でもっとも輝やかしい瞬間だと思います。
 では、なぜ彼はこんなことができたのでしょうか?理由は1つです。彼は聖書を読み、学んでいたのです。当時の聖書は、ラテン語やギリシア語で書かれていました。ですから、一部のインテリ、大学の教授や修道院の僧侶にしか読むことはできなかったですし、そもそも印刷術が普及する以前ですから、聖書の写本そのものが大変貴重なものでしたから、一般人には見ることも触ることもできないものでした。ルターは、そういう聖書を普通のドイツ人が読めるように、教会の迫害を逃れて、全力で福音書をギリシア語からドイツ語に翻訳しました。彼のこの功績は、500年たった今でも、輝きを失っていません。
 ルターは「我ここに立つ」と言い、そう生きました。あなたには、ルターが言ったような「ここ」がありますか?国家権力に取り消しを命じられても、それを断固拒否するような、確固とした「何か」があるでしょうか。
 この春休み、いろんなニュースがありました。この世はまさに<憎しみと暴力>で満ちています。移民排除の主張、ミサイルの発射、世界各地で戦争やテロ……。日本でも、3月29日に集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法が施行され、戦後日本が維持してきた「専守防衛」政策から大きく転換されました。みなさんは、いずれこの世界に出て行くことになります。日々、敬和学園での学びを通して、世界中どこに行っても通用する普遍的価値観、生きる力を身につけ出ていってほしい。そのためにこれから始まる一年間、与えられた今日という日を、精一杯生きていきましょう。

2016年4月4日 開寮礼拝より

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のぞみ寮入寮礼拝より

 

<新入寮生代表挨拶>    H.R(光風館1年:大阪府出身)

 寒い新潟にも温かい風を感じる季節となりました。
 今日から、私たちはのぞみ寮の一員になります。私たちは新しい生活の第一歩を踏み出しました。入学が決まった時は、喜びと感謝の気持ちでいっぱいでした。どんなに楽しい高校生活が待っているのだろう。どんな友達が出来るのだろうと、心を弾ませていました。しかし、同時に戸惑いと不安がありました。今まで暮らしてきた場所を離れて、寮で生活をすること、初めて出会う先輩方や友達、先生方とうまくやっているのだろうか。失敗したり、迷惑をかけたりしてしまうのではないか……。いろんなことが少しずつ心配になりました。
0423_no02 そのような中、ある牧師先生の本の一節に出会いました。それは、藤木正三先生の「神の風景」という本の中にある『迷惑』というお話です。そこには、こう書いてありました。
 生きるとは、お互い迷惑をかけ合うことです。迷惑をかけずに生きていると思うなら、これほど無反省な自惚れはありません。ですから、目標とすべきは迷惑をかけない人間ではなくて、迷惑を赦し合える人間です。厳しい目を自分自身に注いで、知らないうちにかけている迷惑に気付き、優しい目を相手に注いで、相手からかけられている迷惑を赦す、そういう人間です。
 私たち新入生は、先輩方に比べて出来ないことや知らないことが多く、たくさんご迷惑をおかけすると思います。どうか、そんな私たちを受け入れてください。そして、いろんなことを教えてください。困っている時、悩み立ち止まっている時、どうか力を貸してください。意見がぶつかった時、ケンカをした時、僕は「めんどくさい。迷惑だ」と思わずに、そのことに真剣に向き合っていきたいと思います。
 私たちは、こののぞみ寮で自分を大切にし、お互いの存在を大切にし、つながりを大切にして、成長していきます。
 最後になりましたが、私たちが今ここにいるのは、家族をはじめ、数多くの人の支え・励ましがあったからです。そのことをいつも心に留め、これから共に生活する先生方、先輩、そして友達に対しても“感謝の心”を忘れず、楽しい寮生活を送っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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<歓迎のことば>    のぞみ寮運営委員長 T.M(めぐみ館3年:新潟県長岡市出身)
 49回生の皆さん。ご入寮おめでとうございます。そして“のぞみ寮”へようこそ。皆さんが“のぞみ寮”に来てくれることを楽しみに待っていました。
 新入生の皆さんは、これから始まる新しい生活に期待に胸をふくらませているでしょうか?2年前の私は本当に不安でいっぱいで、この場所にいたのを覚えています。しかし今では、こうして仲間と共に充実した日々を送ることができています。ですから皆さんも心配せずに肩の力を抜いてくださいね。
 私は、小学校6年生の時にある一人の友達との関係につまずいてしまいました。いつも一緒にいた友達だったので、とても辛かったです。ですがその時の私は、自分ではどうすることも出来ないと決めつけ、その友達と向き合おうとせず、その子との関係をうやむやのままにしてしまいました。そして中学生になってからも、なるべく人間関係で悩みたくないと思っていたので、人とぶつかることを避け、そしてそんな自分について深く考えたりすることもありませんでした。
 結局私には、自分を変える勇気とキッカケが無かったのです。しかし転機はやって来ました。中3の初めに両親が敬和学園に進学することを勧めてきたのです。私は、公立高校に行くことしか考えていなかったので、とても悩みましたが、ここで一歩踏み出さないと今の自分を変えることは出来ないと思った私は、敬和へ進学することを決めました。
 緊張と不安で入寮した私でしたが、寮生活を送っているうちに、今まで私は本当に限られた狭い世界で生きていたということに気付かされました。ここで様々な人と出会い、関わっていく中で、私はたくさんの刺激を受けてきたし、今まで自分になかったものと出会うことが出来ました。そして、時には“ぶつかること”も大切であるという事も学びました。お互いに思っていることをしっかりと伝え、受け入れあうことによって絆が深まってゆくのだという事を私自身が経験しました。
 今、私はここで共に笑い、つらい時、苦しい時には寄り添い励ましてくれる仲間に、出会うことが出来たことを心から感謝しています。ここでの出会いは、一生の宝物になるはずです。
 寮生活の中では、もちろん壁にぶつかることもあります。しかしその時に、目をそらさずにきちんと向き合うことで、これからの自分の成長につながっていきます。ここでの生活を通して、様々な人と関わり、皆さんの自分自身の世界を広げていってほしいと思います。皆さんにとって実り多き3年間になるよう願っています。

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<保護者代表挨拶>    Yさん(大望館新1年生保護者)
 49回生の皆さん、一日早いですが敬和学園高校への入学、おめでとうございます。また、子どもたちの入学を保護者の一人として嬉しく、感謝します。
 今日は、のぞみ寮への入寮の日を迎えました。どんな人と同じ部屋になるか、みんなと仲良くやっていけるか、ちょっと不安な人もいるでしょう。うるさい親元を離れられることを嬉しく思っている人もいるでしょう。いずれにしても初めて家を離れての、未知の3年間が始まります。
 今回、皆さんと一緒に、我が家の次男が大望館に入寮することになりました。実は、既に長男が44回生として、のぞみ寮大望館で3年間を過ごしました。皆さんのお兄さん、お姉さんが同級生だったという人も、この中にいると思います。3年生だった時、学期のテストが終わった金曜日の放課後、嬉しさのあまり雄たけびを上げながら学校から寮に走って戻って来て、しかし!雨が降っていたため滑って止まることができず、大望館の玄関に突っ込みました。一緒にいた後輩はそれを見て、最初は地面を叩きながらゲラゲラと笑っていたそうですが、実はガラスで両手を30針も縫う大怪我だったというレジェンドの持ち主です。皆さんもけがには気を付けてくださいね。
 その長男ですが、入寮した当初は、やはりとても不安だったようです。しかし、やがて学校にも寮にも慣れて、先輩ともうまくやっていけるようになり、同級生も、部屋のベッドに5人も上がり込んで来て、「お前ら、狭いからどっか行け!」と言うほどに親しい友だちができました。寮生活が楽しくて楽しくて、夏休みや冬休みに家に帰って来ても、早く敬和に戻りたいと言うほど楽しかったようです。
 けれども、楽しいことばかりは続きません。2年生になって、細かいことは分かりませんが、3年の先輩と1年の後輩に挟まれて、寮生活がしんどくなりました。クラスも部活も思うようにいかず、「おれ、敬和辞めたい」と泣いて、電話をかけてきたことが何度かありました。
 そんな暗いトンネルをもがきながら抜けての3年生。最上級生になったということもあり、寮生活にも再び楽しさが戻って来ました。フェスティバルや修養会、讃美歌発表会などのイベントも充実して取り組むことができ、最後は、「おれ、敬和生で本当に良かった」と言って卒業しました。3年間で人として成長した、育てられたと感じます。
 これから皆さんも、どんな3年間を過ごすことになるでしょうか。決して楽しいことばかりではないと思います。苦しいこと、辛いことも必ず起こって来ます。けれども、その苦しく辛い経験が皆さんを成長させてくれるでしょう。その意味で、3年間、無駄なこと、無意味なことは一つもないと思います。この楽しく、苦しい3年間の中で、ぜひ“自分はこうなんだ”と自分の殻にこもらず、心を開いて、今まで気づかなかった自分を探し当て、自分を造り上げてください。そのために諸先生方、またのぞみ寮の先輩方、どうか子どもたちを見守り、サポートをよろしくお願い致します。3年後、皆さん一人ひとりが「敬和生で本当に良かった」と喜んで卒業できるように祈っています。

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<新しい寮務教師の紹介>

 女子寮務教師 小林 渚(こばやし みぎわ)

 はじめまして。今年度から、のぞみ寮みぎわ館の担任になりました、小林渚(こばやしみぎわ)です。敬和の卒業生である私は、高校3年間をのぞみ寮で過ごしました。再び敬和での生活が始まり、懐かしさを感じながらも新しい発見がある毎日です。
 10年ぶりに戻ってきたのぞみ寮は、友愛館という素晴らしいホールでご飯が食べられるようになり、館のトイレも綺麗に改装されて、生徒たちが過ごしやすい環境に整えられていました。しかし、環境は変化しても変わらないものがあることに、ここ数日、寮の先生方や生徒と関わる中で感じています。それは、のぞみ寮にある「あたたかさ」と「笑顔」です。49回生が期待に胸を膨らませ入寮してきましたが、不安も大きいことでしょう。私も同じ思いで寮務教師として敬和に来ました。
 そんな4月に来たばかりの私をのぞみ寮生は笑顔で「新しい先生ですか?」と、迎えてくれました。「みぎわ先生!」と、すぐに名前を覚えて呼んでくれたことに大きな喜びを感じました。「あったかいなぁ。寮生ってすごいなぁ。」と感動している毎日です。毎日多くの寮生に笑顔で声をかけてもらい、私の不安も少しずつ和らいできています。
 私の寮務教師としての生活はまだ始まったばかりですが、のぞみ寮での多くの出会いに感謝しながら、先生や生徒たちと共に喜び、共に泣き、共に祈りながら毎日を過ごしていきたいと思います。生徒たちが活き活きと楽しく寮生活を送ることができるよう、一生懸命努めていきますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

 

 

女子寮務教師 村田 茜(むらた あかね)

 今年度から、寮務教師としてめぐみ館を担当させて頂くことになりました村田茜と申します。また、学校でも英語科、オーラルの授業を担当させて頂きます。
 福岡県出身で、敬和学園に入学した時に生まれて初めて新潟へやってきました。春先まで雪を被っている山脈とその前に広がる田んぼ、そして信濃川、阿賀野川の雄大な姿を初めて目にした時、15歳ながらに感動したことを覚えています。3年間を過ごしたのぞみ寮に寮務教師として、また戻ってくる機会が与えられたことを本当に嬉しく思い、感謝しております。
 高校卒業後はニュージーランドに留学し、約4年間ジャズパフォーマンスを学びました。お別れの悲しさと、新生活への期待から湧き出るわくわくと緊張が入り交じり、気持ちの整理もつかないまま、卒業礼拝の2日後、大きな荷物とテナーサックスを担いで飛び立ちました。言葉が通じない、知らない人ばかり、お米が美味しくない(毎日のごはんを美味しくいただけるって大事です)などを体感し、それまで当たり前すぎてその存在を意識したことすらなかったことが、毎日を生きていく、ということを作り上げていたのだということに気づかされました。そんな大変さの中にあっても、不思議と帰りたいと思ったことはありませんでした。私の留学生活を支えてくれたのは、間違いなく敬和での3年間とそこから今だつながり続けてくれている人たちの存在です。帰る場所があると、安心して出掛けられるのでしょうか。そして、出掛けて行くとまた帰りたいと思える場所が増えていきます。
 大好きだった寮の先輩が卒業される時、私の聖書に「出会ってくれてありがとう」というメッセージを残してくださいましたが、その時の私にとっては聞き慣れない言葉であり、よく理解できませんでした。しかし、いざ自分が卒業する時になって大切な人たちに何を伝えたいだろうと考えた時に浮かんだのはあの「出会ってくれてありがとう」でした。
 まだまだ至らない点も多くありますが、共に成長していきたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します。

 

 

 

<お知らせとお願い>

 ※4月29日(金)のPTA総会後、寮保護者会総会に続き、寮祭が今年も開かれます。寮生は寮祭のメインである一年生の出し物の練習に励んでします。毎年、二年生達が出し物は何をするのか?劇をする館は台本作りに知恵を出し合います。また、その練習に取り組む一年生の緊張は徐々にほぐれていき、一年生同士の横のつながりが出来上がっていきます。寮生達は今年も来てくださった保護者の方々を精一杯の気持ちでお迎えするつもりでいます。一人でも多くの方の参加をお待ちしています。

 

※4月29日(金)のぞみ寮寮祭当日は、“敬和学園50周年記念事業”と“熊本地震を憶えて 日本キリスト教団九州教区”へ献金を募ります。

 

※今年度も6月に行われるフェスティバルの二日目に「のぞみ寮物産展」を開きます。毎年多くの献品を送っていただき感謝致します。来月号に案内を載せさせていただきます。今年もどうぞよろしくお願い致します。

 

 

 

【編集後記】

 先日起きた熊本地震の被害をテレビや新聞で知る度に心が痛みます。今の自分に何が出来るのだろうか。地震が起きる度に恐怖を感じる方々の心と身体をどうか守ってほしい。そのように祈ることしか出来ない自分に無力さ・もどかしさを感じています。しかし、そう祈り続ける中、ふとした瞬間にある言葉を思い出しました。それは東寮長が49回生入寮礼拝で保護者の方々へ伝えた言葉です。

 

『祈りには力があります。子どもの成長を信じて、祈り続けてください。』


 私たちは時に自分の弱さを思い知らされる出来事と直面します。その時、その自分の弱さと真剣に向き合うことが、成長へ繋がることを忘れてしまいがちになります。
 のぞみ寮生は、この1年でたくさんの自分の弱さと向き合っていくかもしれません。しかし、そんな時こそ私たち寮務教師は、一人ひとりを励まし、支え、共に成長する存在でありたいと願い、一人ひとりの成長を祈り続けています。
最後に、敬和学園のぞみ寮が、保護者の皆様のたくさんのお祈りによって支えられていることを憶え、寮務教師一同、精一杯の尽力をさせていただきます。今年度ものぞみ寮教育への御理解と御協力をよろしくお願い申し上げます。

光風館担任 片岡自由